ナバテアの至高神ドゥシャラー胸像から始まるこの展示では、ペトラ地域の自然、長い歴史の移ろい、またペトラのナバテア人が登場する以前の、石器時代から、鉄器時代に当地に栄えたエドム王国までの歴史を、ベイダなど代表的な遺跡からの出土品展示を通じて解明していきます。
この非常に精巧に作られたナイフ形石器は、先土器新石器時代B期の集落であるバジャ遺跡から出土したもので、紀元前約7500年から7000年のものです。骨や木を用いて石器を強く押す、押圧剥離技法(おうあつはくりぎほう)という石器製作方法により、フリントの石材を加工して整えながら製作されました。石器の端(はじ)の部分などを見ると、細かく入念に石器を整えて作っていったことがわかると思います。石器の先端部分は欠けています。舌のように伸びている部分は、柄に差し込む部分です。新石器時代のナイフ形石器の貴重な出土例であり、恐らく高い社会的地位にある人物が所有したと思われるものです。
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この祭壇は、紀元前8世紀から7世紀の、エドム王国の時代のもので、地元で産出する石灰岩で作られています。恐らく宗教儀礼で用いられたと考えられ、上の部分で香が炊かれたと思われます。ナツメヤシの樹や人物、動物を線でえがいた絵が側面に描かれています。その反対側の部分には、ヤギの仲間である野生のアイベックスに、馬に乗って矢で狙いを定める人物が描かれている部分もあります。祭壇が出土したヒルベット・アル=ムアッラク遺跡(Khirbat al-Mu`allaq)は、エドム王国の城塞で、ワディ・ムーサとタイベ(at-Tayiba)の間の、「王の道」沿いに位置しています。
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ナバテアの神々の至高神ドゥシャラー(Dhu-Shara)は、ヨルダン南部、ペトラ周辺に広がるシャラ山地の神でした。これは、ペトラに生きる人々の生活に不可欠な、水や農作物などをもたらす、シャラ山地の重要性を物語っています。
ギリシア・ローマ文化が広まるにつれ、ドゥシャラーはギリシア神話の至高神ゼウスと同一視されるようになり、髭(ひげ)をたくわえた男性像で表現されるようになります。しかし、ここに展示されている1世紀後半の石灰岩製の像は、オリエント的なナバテア芸術の様式による像です。
このドゥシャラー神胸像の浮彫は、ペトラの中心部、列柱通り沿いにある、テメノス門の遺跡で発見されました。下から胸像を見上げることを意識して彫られていて、本来は門の最上部に据えられていた可能性があります。大型で、重量も約1.6トンに及ぶような胸像を門の上に持ち上げて設置することができるほど、ナバテア人が優れた土木技術を備えていたことがうかがえます。
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